心理士のアイデンティティ形成過程に関する研究

Friedman,D.とKaslow,N.(1986)は、心理臨床家がアイデンティティの感覚を発達させていくプロセスを、

人がアイデンティティ形成を果たしていく発達過程に照らし合わせて6段階に区分して論じている。

①「興奮と予期不安」の段階

第1段階は、訓練を受け始めてから、ケースを持つまでの時期である。この時期には、心理臨床家に成っていく機会に対する喜びから、一方で、不慣れさと畏敬の念から、拡散した不安と興奮が見られるとされる。この段階では、訓練を受ける者の不安と非力さに対して、スーパーバイザーからの正確な共感が得られるような抱擁的環境が必要であるとしている。

②「依存と同一化」の段階

第2の段階は、ケースを担当すると同時に始まり、訓練を受ける者が患者への影響力を確認した時点で終わるとされる。この影響力の確認は、専門的・治療的というよりも、個人的なものとして体験される場合が多いが、後の段階での、自分は心理臨床家であるという発見に導くとしている。ただし、訓練を受ける者が、心理療法についての自信や、技能、知識を欠いていると、スーパーバイザーへの過剰な依存と理想化が起こるとする。また、スーパーバイザーからの評価を気にするために、ケースでの多くの情報を隠す傾向が見られるとされる。なお、心理療法の効能に対して確固たる信念を持って訓練に臨む者は稀であることから、この段階で、難しいケースを訓練生に割り当てることは、セラピーのプロセスに対する信頼感の発達を阻害するとされ、避ける必要があるとしている。

③「活動と継続的な依存」の段階

第3段階は、心理療法を始めてから数年以内に始まる。この段階では、スーパーバイザーに対する依存が以前より減少していき、ケースに関してより積極的になり、活動レベルが上がる結果、治療行動や決断に対して責任感が増大する。訓練生は、この過程で全能感を持ち、それにまつわる不安も同時に抱える状態となるが、ケースに関する討議をスーパーバイザー等と行うことにより、感情を放出することで収めようとする。訓練生の受動的、または能動的なケースでの活動と、ケース理解のレベルをスーパーバイザーが受容することで、訓練生の自己概念や自尊心が高まる。また、この段階での患者からの反応は、訓練生が心理臨床家として自己定義の感覚を発達させていく上で影響を与えることされる。

④「活気と責任的関与」の段階

第4段階は、転換期として位置づけられ、訓練生が自分を心理臨床家であると認識することと同時に、心理療法の効果を実感するとされる。意識に高まりから、ケースの担当者としてのみではなく、心理臨床家としてケースの責任をとるようになり、知識や経験が固まり始め、理論と実際の関連を把握できるようになる。そして、ケースに主体的にかかわるようになることで、スーパーバイザーとの関係は緊密でなくなりつつあり、心理臨床家としてのアイデンティティが固まり始める。この段階は、初期に見られた同一化する内面的状態が観察されるとしている。また、スーパーバイザーを治療者として純粋に同一化する内面的状態が観察されるとしている。また、スーパーバイザーには、それまでのコントロールの強い役割から、コンサルタントのような役割に移る必要があるとされている。

⑤「アイデンティティと自立」の段階

第5段階では、専門家としての青年期であり、スーパーバイザーに対する排他的態度や、低い評価を下す態度が目立ち始めるとされる。ケースについては自分が1番知っていると信じていることから、スーパーバイザーの助言の質や精度を評価するようになり、スーパーバイザーよりも優れている面を強く意識するようになる。ケースに関する多くの情報を隠しもするが、その動機は初期に見られたものとは異なり、心理臨床家としての自分を意識し、より自立的になりたいというものであるとしている。自立への意識から、スーパーバイザーによるものとは別の、スーパービジョン・グループ仲間を作ることもあるという。この段階の中心的発達課題は、心理臨床家として依って立つ内面化された準拠枠を持つことであるとされている。また、この段階でのスーパーバイザーには、スーパーバイジーの自立的な動きを支持しながら、必要な時には助ける姿勢が望まれるとしている。

⑥「落ち着きと仲間意識」の段階

最終段階では、落ち着きと安定の感覚と、仲間やスーパーバイザーとの仲間意識の両方によって特徴づけられ、心理臨床家としてのアイデンティティの感覚は確固たるものになっているという。安全な技法的・理論的基礎が確立されているので、「リスク・テイキングは目立った逸脱というよりはセラピー・スタイルの不可欠の部分」になり、以前には関心の薄かった治療様式や、課題を追求することにも関心を持つようになるとされる。専門的意見は主に先輩の専門家から得るものという初期に見られた意識から、仲間も貴重な考えや体験、情報を持っているという事実に気づき、受け入れられるようになる変化によって、心理臨床家としてのアイデンティティの統合レベルが示されるという。この段階で増えるスーパービジョン・グループは、青年期的特徴のある段階で見られたスーパーバイザーへの反抗からくるものではなく、純粋な仲間への尊敬から生じるものであるとされる。スーパーバイザーに対しては、理想化や過小評価をすることはもはやなく、個人的にも専門家としても欠点も長所もある経験を積んだ臨床家としてのアイデンティティと、心理臨床家としてのアイデンティティの発達が重なるところであるとしている。また、訓練の段階で受けていたスーパーバイズを終えることと、専門家として仲間や職場の管理者から認められることは、専門家としての自律の感覚を高め、その一員となったことを自覚させるとされている。

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